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小川勇太誘拐殺人未遂事件の犯人心理(コナン3巻) 2003/07/28(月) 22:17

 コナン3巻FILE7〜10
 小川勇太誘拐事件(というか、『奇妙な贈り物事件』と書いたほうが通じるかと思いますが)についての考察です。

 さて、この事件についてまず、ツッコミ。

『本当の父親かどうかなんて、本人に聞けば分かるだろ、保母さん!?』

 以上。終わり。

 ……ごめんなさい。これじゃ、ただの揚げ足とりですね。
 実際、これだけなら、わざわざ研究室で突っ込むような内容じゃありません。そもそも、この事件ミステリーではあっても『推理物』じゃないし。

 実のトコロ、上の件に関しては別に矛盾とかそういうもんでもないんである。
 これに関しての答えとしては『保母さんが職務怠慢だっただけでしょ?』とかえされておしまいである。

 じゃあ、何が問題なのかというと、

『なんで犯人は幼稚園で『父親だ』などというすぐにバレそうなウソをついて子供をさらおうとしたのか?』
 これなんである。

 相手は幼児である。攫おうと思えば、そんな監視の厳しい幼稚園でなくても例えば……

 ……いや、まあ、時節柄幼児を攫う方法を考察するのはシャレになっていない気がするのでやめますが、少なくとも、保母さんに顔を見られるようなリスクを負う必要では全くないのである。
 ではなぜ犯人はこんな事をしたのだろうか。

 青山氏のミス?

 いやいや、実は僕はここには犯人の複雑な心理状態が見え隠れする気がするのである。

 この事件の犯人、結末から見れば明らかなように『小川氏に対する怨恨』から事件をおこしたわけだが、そこには同時に、心の奥底で『息子が死んだ本当の理由は手術ミスではない=小川氏に対する怨恨は逆恨みに過ぎない』という相反する思いもあったのである。
 理屈ではわかっている。だが、感情が耐えられない。息子が死んだ。それを『誰か』のせいにしたい。そうしないと耐えられない。
 しかし一方で良心はささやく。あれは手術ミスの為ではなかった。これはただの逆恨みだ。そもそも勇太くんにはなんの関係もないことだ。
 この心の狭間で彼は揺れ動き続けていた。
 あるいは、その揺れ動く心の奥底には、『自分がもっと早く息子の病状に気づいていれば……』という後悔の念と、それをみとめたくなく、別の人間の責任に転化したいという心理もあったのかもしれない。

 そう考えると、犯人の理不尽な行動に説明がつくのである。

 彼は、おそらく幼稚園の前でこう考えていたのだろう。
『……もし……もし、父親だと名乗って、それが偽りだとばれたら諦めよう。だが、だが、もしもばれなければ自分はこの誘拐を遂行する……』
 結局のところ、怨恨と良心のバランスをとる事ができず、その結末を『運』にゆだねたのである。おそらく、彼の良心は幼稚園から勇太くんを連れ出す時も『気づいてくれ、この暴走しているオレを止めてくれ……』そう叫び続けていたのではないか。
 しかしながら、保母さんの怠慢(?)から、誘拐が成功してしまった。
 そうなってしまうと、自分の暴走を止める事がさらに困難になってしまう。
 それでも、彼は悩む。
 誘拐してすぐに殺人に及ばなかったのも、そして、公園のど真ん中で殺人を遂行しようとしたのも、やはり心の中の『オレを止めてくれ』という叫びのためだったのである。

 そして、その最後の最後、彼は踏み越えては行けない最後の一線をコナンのおかげで超えずにすんだのである。

 あるいはもしかして、このエピソードには次のような展開も考えられていたのかもしれない。
『来るな!! このガキを殺すぞ』
『よせ、あんたは本当はそんなことをしたくはないはずだ』
『うるさぃ!!』
『もしも本当に勇太くんを殺したいのなら、なんであんな父親だなんてすぐにバレそうなウソをついたんだ!? なんでこんな人の目に付く公園で殺そうとしたんだ!? なんですぐに殺さず勇太君を連れまわしたりしたんだ!? あんたは本当は止めて欲しかったんだよ。だからあんたは……』
『う、うぅ、うぅぅ……おれだって、おれだって本当は分かっていたんだ……』

 それがページ数の都合か、はたまた『この状況だと新一(コナン)には言わせるわけには行かないし……とすると毛利探偵に言わせるしかないんだが……そうすると主人公がコナンじゃなくなっちゃうなぁ』といった判断が働いたのか、サッカーボールでの力技に変更されたとも考えられなくもない(←やや深読みし過ぎかもしれないが)

 殺人を犯す者全てが『血も涙もない殺人鬼』や『機械のように密室トリックやアリバイトリックを念入りに仕立て上げる』わけではなく、実際の殺人犯も、血の通った人間だということを、この事件は示している。
 ゆえに僕は(念入りにプロットが立てられた同じ巻の旗本家連続殺人事件よりよりもなおいっそう)このエピソードが名作だと思えるのである。
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