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図書館だより28 2003/12/07(日) 20:08

<お兄ちゃんは自殺じゃない>三笠貴子

 3年間というのはずいぶん長い期間ではないだろうか。3年もすれば画期的な新商品も当たり前のように普及するし、アイドルも世代交代するし、景気の動向も変わるし、下手をすると国自体が変わってしまう。
 10年一昔、と言ったが今は3年一昔でもおかしくない。しかし、それだけの時間の中でも変わらないもの、変われないものがある。・・・犯罪被害者家族の悲しみ、憤り、無念さ・・・犯人が明らかになり、刑に服したとしてもそれは消えるものではない。そして迷宮入りや加害者が少年であった場合などはなおさらその思いが募るのではないだろうか。ましてそこに警察の捜査ミス、判断ミス、そして隠蔽工作の疑いが絡んできたとしたら・・・

 本作品の作者は作家でもジャーナリストでもない、グラフィックデザイナーという仕事をしていた一人
の女性であった。作者三笠さんは兄を事故でなくし、その悲しみに打ちのめされながらも警察の捜査のずさんさ(と、言っていいのかな。でも本書を読む限り他の言葉は見つかりません)、現場状況や証拠物件と警察の判断との明らかな矛盾に不審を抱く。
 2時間ドラマならここで主人公の捜査が始まり、警察も困っていた事件を解決に導く。三笠さんは現実の世界でそれをやってのけたのだ。当然、ドラマのように都合良く真実が向こうから転がってきたり、偶然証拠を見つけたりするはずもなく、メンツを第一に考える警察の妨害にあったり、調べてもらえるはずのことが調べてもらえなかったり、まさに国家権力を敵にまわした戦いである。その戦いは3年間に及んだ。三笠さんはその3年で多くのものを失っただろう。また、ふつうの人生を送っている人たちには得ることのできないものも得たであろう。
それでも三笠さんは、犯罪被害者遺族は言うのだろう。「真実が知りたい。お兄ちゃんを返して」と。

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