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図書館だより37 2004/10/03(日) 11:14

<うつくしい子ども>石田衣良

 諸君は酒鬼薔薇聖斗事件を覚えているだろうか。一般的には神戸児童連続殺傷事件と呼ばれている。日本犯罪史上にも例を見ない、中学生による猟奇殺人事件である。

 思えばあの事件以来、たまっていた、よどんだものが出口を見つけて一気に吹き出したかのように少年事件の激化、低年齢化は一途をたどっている。

 本作品はあの池袋ウエストゲートパークの作者、石田衣良氏によるものである。前ふりを読んで予測されているとおり、神戸の事件がモチーフである。主人公は犯人の兄。犯人である弟は13歳。
 ってこんなにばらしてどーする!?といわれそうだがここまではなんと文庫本の帯に書いちゃってあるのだ。しかもこの帯は石田氏が自分で作ったらしい。(彼はほとんどの作品の帯を自分で手がけている)
 ということはこの作品のテーマは犯人捜しじゃないのだ。兄である14歳の少年が果敢にも弟のために事件の背景を探ろうとする戦いの物語である。と書けば格好いいが、実際そんなにうまくいくわけもない。なにしろやったことは殺人なのだ。弟が実行犯なのは疑う余地もない。自分の家族に殺人犯、しかも快楽殺人者がいることを認めることがどういう意味をもつか、想像を絶する。それでも戦う少年が見つけたものとは・・・


 佐世保の事件では加害児童が「ごめんね、ごめんね」と泣いているという。彼女は誰に謝っているのだろう。彼女に被害を与えられたのは殺された被害者だけだろうか。しかし、忘れがちなことだが、双方の家族はもちろん、同じクラスの児童、同じ学校の児童、教師たち、近隣の住民、誰も彼もが否応なく人生を変えられたんじゃないだろうか。
 昨日までクラスにいた友達が二人もいなくなった。一人は殺されて。もう一人はその加害者で。私なら一生忘れられない。楽しいことがあれば笑う日もあるかもしれないけれど、その事実はずっとついてまわるだろう。その意味がわからない、ということが「責任能力がない」と見なされるのだろうが、だとすれば責任能力のない人間には本当に何もさせられない。
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