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仮面舞踏会 2001/10/03(水) 18:56

<仮面舞踏会>栗本薫

 ネットの世界でワレらは一応相手を信用しておつきあいをしている。ここには悪い人はいない、嘘はない・・・そういう前提でないとこの社会が成立しないからだ。その前提が崩れたとき、この世界ほど怖い世界はない。買った商品が送られてこなくても相手を追求することができない。学歴や結婚歴、勤め先や、うまくやれば性別すら詐称することができ、相手にはそれを確かめるすべはない。そんな大きな犯罪でなくても迷惑メールや中傷、暴言、バトル、・・・どんなことも起こりうる。
 つまり、ネットの世界は自分で自分を律することができる人間だけしか本来入るべきではないのだ。現実の世界で許されないこともネットでは許される、などということがあっていいはずがないのだから。

 本作品はそうしたネットの世界を舞台にしている。チャットルームの諍いやオフ、ネッカマなど、ワレらにはなじみ深い言葉があふれている。(作者自身もニフティのIDを持っており、用語など察するにニフティサーブをモデルにしているようである。)だからこそ、ワレらにとってはただのミステリーに終わらない。作者自身の思いもそこにあるとワレは信じています。

 「アトム」の友達「姫」はネッカマ。ネット上で性別を詐称し、男たちを引きつけ、心の中で馬鹿にしている。現実の世界でそういう女の子がいたら当然そうなるように、「姫」はトラブルメーカーである。ある日、「姫」が「アトム」の所にやってきて・・・
 ワレが大好きな伊集院大介シリーズである。残念ながら大介は最後の方に少しだけしかでてこない。しかし、この作品は「アトム」こと稔くんが、大介のワトソンに出世する作品であるので、まあ我慢しましょう。

 ネット犯罪というと一部の悪質な確信犯ばかりで自分たちは被害者にならないことだけ考えていればいいように思ってしまうが、顔の見えないネットの世界だからこそ、些細な言葉ややりとりが大きな問題に発展してしまう危険をはらんでいる。言い換えれば誰もが加害者にも、被害者にもなれる世界だと、作者は言っているのかもしれない。

 お説教臭くなるが、ネットと出会ったばかりの若い子たちにはどうか忘れないでもらいたい。作品の中で大介が言っているようにネットの世界といってもやはり「そこに集まるのは人間なのだ」ということを。ネットの世界でいろんな裏技を覚え、あたかも人を操れるようになったと感じてもそれは錯覚でしかないということを。
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