<空飛ぶ馬>北村薫
ワレはこの人のことをずっと女性だと思っていた。名前が「かおる」だということもあったが、とても女性の気持ちをよく描き込んでいるからである。この短編集には主人公が入浴する場面が出てくるのだが、「湯船に浸かって自分の体が愛しくならない女がいるだろうか」というような表現がある。この辺がかなりツボを心得ているというか、うまい、というか。(女性の方ならわかりますよね)まずふつうの男性には書けそうもないところである。それでは繊細な若手男性作家なのかというと写真で見る限り、ふつうのおじさまであったのでまたびっくりであった。
一見何気ないふつうの暮らしの中に起こる不可解な出来事。主人公の疑問を鮮やかに解き明かしてくれる今回の探偵は円紫師匠(落語家さん)である。この人も不思議な人でいい年のはずなのだが、少年のような印象があり、何となく作者自身と重なるような気がしてくる。円紫師匠はとても優しい眼で人の心の動きを見守っているようだ。愛情や思いやりが創り出した謎も、人の心の闇が創り出した謎も鮮やかに解き明かして主人公に見せてくれる。やはり最大のミステリーは人の心だなあ。
本作品に続くシリーズもいずれも秀作。 |
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